朝10時ブリュッセル発パリ行き。
このバスに乗って芸術の都パリに向かう。
といってもパリには泊まらない。バルセロナに行くためのトランジットで3時間ちょっと寄るだけだ。
そうは言ってもあのパリだ。シャンゼリゼ通りをパリジェンヌやパリダンディ(男版の呼称を知らない)達が歩き周るあの街だ。
最低限身だしなみを整えた方がいいのではと、突如思った。バックパッカーの分際で何を言っているのかと思うが、「清潔さ」は恋愛のみならず人生においてとても大切だ。
しかしもう宿はチェックアウトしており、服装はザ・バックパッカーなユニクロストレッチジョガーパンツと半袖白Tとウィンブレ。バス移動も長いので正直ここから着替えるのはいくらパリとはいえ面倒臭い。
うーんどうしようかとアゴを撫でると、ジョリっとした。これは日記を書くための脚色で、実際にそんな理由でアゴを撫でてはない。
「せめてちょっと生えたヒゲでも剃るか、あと歯磨き」と中途半端な落とし所を見つけた。
今回こんな日常を書くに至った理由は、ヒゲ剃りと歯磨きをした「場所」にある。
人生初の屋外髭剃り、屋外歯磨きをした。ちょうどいい屋内がなかったので、バス停近くの公園を使わざるを得なかったのだ。
これがまたえもいわれぬ爽快感があった。晴天の9時、緑あふれる公園のベンチでひとり電動髭剃り片手にじょりーっとひげを剃る。つるり。
次は歯磨き。チェックアウトの後のカフェで濃密なブラウニーをいただいたのでちょうど歯を磨きたかった。
道の水を口に含んだ瞬間病院送りになると噂のインドでの経験値により、10ml程度の水があればどこでも歯を磨けるようになっている。
堂々と歯ブラシにイスタンブールで買った謎の歯磨き粉をつけ、朝の光を浴びながらしゃこしゃこ歯を磨く。「人生の自由、ここに体現せり」という壮大な気分になった。
ここで現実的な問題が発生する。口に溜まったあわあわをどうするか問題だ。排水溝も近くにないので、そのへんに「ぺっ」するしかない。できるだけ草が生えてない、すでに栄養が無さそうな大地を選び、「ぺっ」させていただいた。
今思うとこれからパリに行く者としては、もう少しお上品にぺっしても良かったかもしれない。口噛み酒を吐き出す時の、手を口に寄せ、着物の裾で口元を隠す絵が思い浮かんだが、全身ユニクロ野郎がそんなミスマッチなことをやったら滑稽極まりない。スタンディングぺっで十分だっただろう。
ペットボトルの水で歯ブラシを洗い、ティッシュで拭き、無事身を清めきった。
パリが俺を待っている。