ミュンヘン空港での入国審査の列はなぜか長かった。飛行機を降りるのが遅れたため、前に30人ほど並んでいた。
にしても遅い。一人当たりの時間が長く、不手際のありそうだった人は10分くらい捕まっている。窓口も3個ほどしかなく、思ったより時間がかかりそうだと覚悟した。
ミュンヘンには実は叔母さんといとこが住んでいる。旅も3週間となり身内が恋しくなり始めたタイミングで、叔母さん家に泊まらせてもらうことにした。
しかもいとこが空港まで迎えに来てくれると言う。思いっきりお言葉に甘えることにした。月曜だったので、「仕事はどうしたのか…?」という疑問が口を出かけたが抑えておいた。
いとこが空港着いたという連絡が入ってから30分ほどたってやって自分の番になった。いとこを待たせているので、早く終わらせなければ。
しかしここでドイツの入国審査の厳しさに直面した。
「リターンチケットはもってる?」
「まだ持ってない。旅の途中で購入予定だ」というと困惑した表情をされた。
「ミュンヘンの後はどこ行く?」
「まだ決めてない。多分チェコとかだと思う」
というと再び困惑顔。
「鉄道のチケットは?」
「持ってない。後で買う」
この辺りで確実に怪しい認定をされたと思われる。
「宿の予約はしてる?」
「いとこの家に泊まるんだ」
「今電話して確かめて」
電話…だと…?予想外の指令に戸惑った。
eSimで電話番号があるのかないのかよく分からないやつを契約してたので電話できるか分からないし、そもそも相手が今電話を取れる状況かもよく分からない。
案の定、電話をしてみたものの上手く繋がらず。
10分くらい窓口で格闘したが、結局繋がることはなかった。どうしようと思っていると、いとこが空港に迎えに来てくれていることを思い出したので、出口に行けばいとこに会えるかもと伝えた。
審査官と一緒に出口付近に向かった。出口のゲートが複数あるなどの理由でいとこと会えないリスクを考えたが、無事すぐ出たところに待っていてくれた。
助かった、これで入国できる。
と思ったが、またここからごたごた始まる。
ただこのごたごたが具体的には何だったのかはよく分からない。いとこと審査官の間のやりとりはドイツ語だったからだ。
「こいつは今日俺の宿に泊まるぜ。」的な一言で済む話と思っていたところ、長めのやり取りがなされていて訳が分からなかった。いとこは自分のIDカードを見せるなどしていたが、まだラチがあかない様子。本当に申し訳と思いつつ、何もできないのでひたすら黙る。
超反省していることなのだが、ここでふと「あれ、俺リターンチケット持ってね?」ということを思い出した。ちょうどこの前日、安かったのでマドリードから日本に帰るチケットだけ購入していたのだ。
言い訳させてもらうと、この「リターンチケット」という言葉、「ドイツから出ていくチケット」と勘違いしていた。なので持っていないと誤認したのだ。言い訳になってない。
「ドイツから出るチケットは持ってないけど(言い訳パート)、マドリードから日本に帰るチケットなら持ってる」
と突然ドイツ語の応酬の中に英語でカットインしていくと、
「お前それを早く言えよ、もってねぇって言ったじゃん」的な顔をされながら、「早よ見せろ」と言われた。
リターンチケットの予約画面を見せた後、なぜかクレジットカードと、銀行口座の残高を見せろと言われた。金無しで入国してくる輩を弾くためだろうか。しかしこちらの口座には6年の監査法人勤務と日々の倹約の結果が溜まっており、何だったら証券口座も見せてやろうかあーん?と、それまでのびくびく弱者感によるマイナスを取り返すかのように強気で見せた。どう思われたのかは分からない。
総計30分程度をかけた末に「行っていい」の言葉をもらい、ついにドイツに足を踏み入れることに成功した。
トルコの入国審査がゆるゆるだったので油断した。「ワイマール憲法の国だしルールに厳しいんだろうな」と関係あるのかないのかよく分からないことを思った。