メフ、というおデブど同室になったのだが、メフはかわいい。
ザ・洋梨体系に、いつも満面の笑みとメガネ。映画でよく見る。というか名前の「メフ」もどこかおデブっぽくて好きだ。そしていい奴なのだ。メフトークをさせてほしい。
クラクフ最後の夜、シンドラーのリストを部屋で見ていた。部屋は6人部屋。
「これ」と決めた作品は1人で集中してみたいタイプだ。それまでずっと妻と見ていた響け!ユーフォニアム第3期など、最後の回だけ「ごめんなさい1人で夜に集中して観ても良いですか」とわざわざ1人で観た。
アウシュビッツを見学した日の夜というこれ以上ないコンディションで観るシンドラーのリスト、できれば同室に人がいないといいなと思っていた。
神が味方した。始まりからほぼ終わりまで部屋には自分だけだった。しっかりしゃくり泣いた。
ほぼ、というのは、エンドロール開始とほぼ同時にメフがその腹を揺らしながら笑顔で部屋に入ってきたからだ。
ぎりぎりセーフだ。許そう。むしろここまで待ってくれたのかもしれないありがとうメフ、という感謝の気持ちすら湧いてきた。
とはいえまあ少し映画の余韻に浸りたかったので、イヤホンはつけたまま「まだ動画に集中してますよ」アピールをして会話が始めるのを防いでいた。
10分くらい経っただろうか。メフが私のベッド前に近寄りちらちら見てくる。
余韻も落ち着いてきたし、明らかに話したそうな感じだったのでイヤホンを取った。
「あ、ごめん、何してたの?」
「音楽聴いてた」
「ナイスナイス👍」
ナイスナイスと言いサムズアップをするのはメフの日常である。
「今日はどこ行った?」
「アウシュビッツ行ってきたよ」
「ナイスナイス👍」
「そっちは?」
「その辺で友達とご飯食べてたよ」
他愛の無さはこの旅No.1だ。
「明日はどうするの?」
「ワルシャワに行くんだ」
「ワルシャワ?ナイスナイス👍」
そう。明日はワルシャワに移動するので今日がここに泊まる最後の夜だ。そのことをメフに伝えると、
「私は日本人のあなたに会えてとても嬉しかった。ありがとう。どうぞ音楽に戻って」
と笑顔で言ってくれた。突然ほっこりさせてくる。メフと握手をした。
メフとはインスタを交換した。普通の人は写りが悪いからと避けるであろう、激ローアングルから二重顎を強調させたアイコン画像を見ると、あの「ナイスナイス👍」を思い出す。どこかでまた会いたい。