無賃乗車をしたら罰金を食らった。
そもそも前提としてヨーロッパの公共交通機関は改札や乗車時チェックがない。各自でちゃんとチケットを持っておいてね、という性善説を基本にしている。ただチェック機能がゼロだと無賃乗車が横行するので、「たまに」チェックする人がチケット確認し、そこで無賃乗車だった人には罰金、という仕組みになっている。
最初に一言だけ言い訳をさせてほしい。
〈言い訳/〉
まずちゃんとあとで払おうと思っていたのだだがバス内の券売機が混雑しておりしばらく待った後もベビーカーが乗ってきてそこまで移動するのがちょっと邪魔になっちゃうかなまあ最悪今回買えなくても明日また乗る時2回分払うなどしたらいいだろ合計同じだしと思っていた矢先にチケットチェックマンたちに捕まってしまっただけで決して無賃乗車するわけじゃなかったのだしかも無賃状態でしばらくなってしまったのもこれが初めてなんだ信じてくれよ
〈/言い訳〉
詳細を話したい。
上のような状況でバスで座っていると、バスの前から「何かしらの読み取り機」を持った2人の50代くらいの男性が、1人ずつ乗客に話しかけている。
「あ、これもしやチェックのやつか…?」
ヨーロッパのバスは事前チェックがなく、たまに抜き打ちチェックがあるということは聞いていたが、それまで実際にチェックされることはなかった。
この時の緊張と言ったらない。
徐々に男どもが近づいてくる。
男どもに合わせてこちらも後ろに避難して次のバス停まで粘りそこで降りて回避(後日払う)という案も一瞬浮上したが、道徳心が働いたのか勇気がなかったのか、体は動かなかった。ただこの時点でも、まあ事情説明したら何とかなるだろ、と期待はしていた。
男どもがこちらに来た。
事情を説明すると1秒でバスから降ろされ、「164ズウォーティです!」と言われた。問答の余地は一切ない。
ちなみに1ズウォーティ40円くらいなので、合計6500円くらい。正規に乗車すれば100円くらいなので50倍の罰金を払った。
空を見上げて自分の人生を振り返った。
思えば真面目すぎる人生だった。先生に怒られるのを何より嫌う性格だったので、常に優等生的に振る舞い、悪いことはほぼしてこなかった。
それが今日、普通に悪いことをして、普通に罰せられたのだ。
あんな感情も他にない。「やりきれない」「やり場のない気持ち」というのか。とにかく100こちらが悪くて罰せられたのでもう何を恨むもないが、感情のジャンルでいったら間違いなく“悲しい”に分類される。悲しさの対象が謎なのが特徴だ。
ワルシャワの一番の思い出である。