久々に早起きをした。6時半。大したことではないのだが、印象に残った光景がある。
共有ルームで、80代くらいのおばちゃんが鏡を使ってお化粧をしていた。この光景自体が不思議に印象に残った。
このおばちゃんは初日からずっといる。そして、ドーミトリー内でどことなく煙たがられていた。
英語もポーランド語も通じない。何語か分からない言語をずっと使っている。
昨日は同室の男性と共有ルームで話していた時に、うるさく思われたのか怒鳴られた。同室の男性もしばらくここに泊まっており彼女への対応に慣れているのか「うるせえ!」と自国語で応戦していた。その剣幕は凄かった。「あの人ちょっとおかしいんだよ」とその後話した。
噂で「数ヶ月ここにいる」「ウクライナ人らしい」など聞こえてきたが、真相は分かりようがない。
そんなおばちゃんが朝の6時半、他に誰もいない共有ルームの一角で静かに髪をとかし、お化粧をしている。
他の男性のことはあまり知らないがあえて強めに一般化すると、男性にこういう時間は少ないのではないか。朝の時間に、自分のために、お化粧をする。
女性であること。日本人ではないこと。少なくとも気難しい方であること。そういった自分との距離の遠さゆえなのか、なぜかその光景が印象に残った。この印象を的確に言い表すことはできないが、「神聖さ」や「敬虔さ」といった言葉のイメージが近い。
実は初日に共有ルームで皿を割ってしまった。その時このおばちゃんは何かを言いながら、お皿の一部を片付けることを手伝ってくれた。もちろん明らかに気難しい方なのだが、こんなエピソードもあって、個人的にはこのおばちゃんに邪険な思いは持っていなかった。
今日この宿を発つ。おばちゃんはまだしばらくここに泊まり、同じように早朝、ひとりで静かに鏡に向かうのだろうか。