どの都市も楽しかったのだが、「面白い人と出会えた」という切り口でいうと、インドのバラナシとポーランドどクラクフの2都市を挙げる。
なぜ面白い人と出会えたかを考えてみた。
2つの都市に共通するのは、「首都ではないこと」、そして言葉を選ぶのが難しかったが「思想強めな観光名所」があることだ。バラナシにはヒンディー教の聖なる川、ガンジス川があり、クラクフにはアウシュビッツがある。
このような都市への訪問を選択すること自体に強いフィルターが働いている。なのでそこで出会う人とは気が合いやすく、結果として面白いと感じることが多いのではないかと思った。
首都のような場所も当然「その国を選ぶ」という点でフィルターは働くが、その強度はそこまで強くない。「まぁ首都は色々観光名所あるしとりあえず行くか」という人が多いと思われる。
自分に合う面白い人と旅で出会うには、「興味のある場所を首都以外から探す」というのを覚えておくとよいかとしれない。
バラナシでは「沐浴をしなければならない」という思いに駆られた熱い男、あっくんに会えた。
クラクフで印象的な出会いだったのは、ルドという男性だ。フランス人。40代。ドーミトリーの共有ルームで朝ごはんを食べていると向こうから「Where are you from?」と話しかけてくれた。やはり旅人の会話の始まりはこれなのだ。
ドーミトリーで出会うソロ旅人で私より年上の人は、基本的に変わった経歴をしている。ルドもその一般法則に漏れていない。今は仕事をしておらず、フランスからの生活保護のお金だけで、生活費の安い国を転々としているらしい。
「”自由”が僕の中で一番守るべきプライオリティだ」と言うルドにはちゃんと強い信念がある。ただ無職なのではない。そこが好きだ。自由なルドはかつて中国に10年、やルワンダに1年も住んだことがあるという。ルドがしてくれたルワンダ紛争の話は記憶に残った。
ちなみにルドは漫画『BLUE GIANT』のヨーロッパ編に出てくるクリスに驚くほど似ている。そして人間性のジェントルマン具合も驚くほど似ている。拙いこっちの英語を「こういうことだよね」と的確に解釈をしながら聴いてくれ、曖昧なアウシュビッツの感想も「共有してくれてありがとう、嬉しいよ」と言ってくれた。ルドの話も、ルドの様々な経験に裏打ちされたような大きさを感じ、面白い。1時間も話してないのだが、この引き込まれ具合。これを包容力、器などと言うのかもしれない。
人と出会って嬉しいことの一つは、「その人に関連することがらへの興味が高まる」ことだ。
「ルドの年になっても好奇心や頭の自由さを維持するにはどうしたらいいの?」と聴いた時に返ってきた、「フランスの哲学を読んでみると良い。フランス人は昔からずっと自由について考えている」という言葉。哲学なんてものは相当なエンジンがないと学べない。ルドとの出会いは「ちょっと哲学の本でも読んでみようかな」というやる気をくれた。
哲学だけでなく、そもそもこのルドという魅力的な人物が育ったフランス自体にも興味が湧いた。フランスはまだ行ったことがない。
ルドはミニマリストで、荷物は少ない。そんなミニマリストなルドに不釣り合いに大きな荷物が一つあった。フレンチプレス式のコーヒーメーカーである。「コーヒー飲むかい?」と初めて会った日も、フレンチプレス式のコーヒーを振る舞ってくれた。
ルワンダではコーヒー豆が有名と、ルドとの話の中で少し聴いた。詳しくは聞いてないが、おそらくルワンダでの生活の中で何かコーヒーやフレンチプレス式についての印象的な出来事があり、その運びにくさに関わらず今でも愛用しているのかなと妄想した。だとしたら、素敵だ。
恥ずかしいくらいに影響されやすいが、日本に帰ったらフレンチプレス式のコーヒーを試してみようと思った。