最低と最高をどっちも知ると面白い。
この旅の宿は基本ドミトリーだった。ドミトリー内での良い悪いは当然あるが、宿という大きな括りで見たら、ドミトリー自体は下の方だろう。
そんな”下の方”に安住していたこの旅だが、このヘルシンキという、楽園のような都市で、逆に星5のホテルに泊まるという選択をした。(偶然安いのに良いホテルが取れた)
良いホテルに泊まったら何をするか。そのホテルを味わい尽くすことだ。
隅から隅まで徹底的に余すとこ無く堪能しきってやる。しかもこちらはドミトリー続きで感激しやすいコンディションだ。どんとこいファイブスター。
まず最初のサプライズは受付だ。それまでのドミトリーでは「passport?」から始まる機能的受付トークしかしてこなかったのに、いきなり「How are you?」とアイスブレイクが始まった。「あっ…えっ…I’m fine…and you?…っじゃないや受付の人に聞いてどうすんだ…えっとI’m fine.」と、中1レベルの英会話に明らかにキョドッてしまった。
どぎまぎしながらもチェックインは完了。
受付脇にあるテイクフリーのチョコとグミをしっかり回収。美味かったので後ほど再度回収に伺った。ドーミーイン1泊でアイスは3回取る図太さをヘルシンキでも発揮。無料のカロリーは積極的に摂取する。
部屋に着く。まず水場が感動ものだった。
ノーマルシャワーヘッドとデカ平たい固定シャワーヘッドが併設されている。ちょうど旅の写真を振り返っていて、インドのワースト宿のシャワーヘッド(水が出る穴1本)の画像を見ていたので、その差が際立った。
そして、トイレである。自称「トイレマニア」の私からして、ここのトイレは最高にcoolだった。
まずデザイン。丸みを帯びながらも、縦方向には垂直なライン。この垂直さは日本が誇るTOTO製品とは異なり、フィンランドのittalaのガラス製品を彷彿とさせる。さすがだ。
機能面も、この旅初のウォシュレット付きだった。ウォシュレットはもはや日本にしか存在しないと諦めかけていたのを、ここヘルシンキのファイブスターホテルは覆してくれた。
ウォシュレットだけでない。なんと謎のリモコンがついていて、蓋の自動開閉なども可能だ。
さらに、だ。フィンランドといって連想するものは何か。サンタ?その次は?そう、「サウナ」だ。このホテルにはサウナがある。
意気揚々とサウナに行って一汗流した。「Where are you from?」法を身につけた私はサウナでも「Where are you from?」を繰り出し、アラスカ出身のネイティブアメリカンミュージシャンの方とコミュニケーションが取れたので気分が良い。ファイブスターホテルは来る人もファイブスターで、とても気さくだった。
サウナ後も粘り強くこのホテルを堪能する。バーだ。
ホテルにはバーが併設されていて、「海外バーに1人で行く」という目標もここでクリアさせてくれた。ヘルシンキ特有のカクテルみたいなものがあれば飲みたいと思い、「Is there some Helsinki like cocktail?」と聞いたが通じなかった。〇〇ライクは和製英語だったらしい。
代わりにヘルシンキのウイスキーを頼んだ。見たことなかったので「写真を撮って良い?」とマスターに聞くと、「僕と一緒に撮ってよ?」とおどけてくれてかわいかった。本当に一緒に撮ろうとしたら「冗談だよ〜!」と行ってしまった。そんな恥ずかしがり屋なところともかわいい。
施設も当然素晴らしいのだが、やはり人だと思った。人とのやり取りが良いものだと、それだけで満足感がある。
話は少し過去に飛ぶ。ウィーンでコンサートのチケットを買った時のことを思い出した。ネットで買うのでは無く、前日にコンサートホールの前のチケット屋さんで買ったのだ。チケット売り場のお兄ちゃんはモーツァルトのカツラを被っていて、どんな曲あるのと聞くと、楽しげに口ずさんでくれたのが印象に残っている。買うこと自体が一つの楽しみの源泉、という感じがある。
また記憶は過去に遡る。日本でも百貨店などで贈り物などを買おうとしてる時の店員さんの接客は、「この接客を受けていること自体にも価値があるから、実質値引き」と感じるものがある。
人とのやり取りそれ自体に意味がある。なぜなら自分が人だから。良いサービスの源泉は人であり、良い設備で十分な訳ではない。そんなことをヘルシンキウイスキーを飲みながら思っていた。
ヘルシンキウイスキーはライモルトだった。