パエリア作りのワークショップに参加してきた。ゲルニカを観るのと同じくらい、マドリードで楽しみにしていたイベントだ。
参加者は4人。私と、ミシシッピ出身の老ご夫婦と、オーストラリア出身の小学校の教師。パエリア作りを教えてくれる先生もとても気さくで終始和やかな会でとても満足度が高かった。
先生の人柄もさることながら、ワークショップ自体の構成が素晴らしかったのでそのことについて書きたい。
というのも私はワークショップオタクみたいなところがある。監査法人時代は本業の監査と全く関係ない「中高生に会計の授業をする」仕事に監査の100億倍の熱量を注ぎ、スケート部でも今でもたまに30分程度の集団レッスンを設計したりするので、ワークショップ感度がすごい高いのだ。
今回のパエリアワークショップで卓越していたのは、待ち時間の使い方だ。
パエリアは具材を切って鍋に入れた後、当然ながら火にかけてしばらく待つ時間が発生する。ここをどう使うかが、おそらく工夫されたところだと感じた。
ここでただ待つだけだと、ワークショップ設計者として失格である。顧客の満足度を全く考えられていない。
パエリア先生の工夫は、「サングリアも作っちゃおう」という点にあった
実はこのワークショップはパエリアだけでなくサングリア作りも含まれていた。最初にサングリア、次にパエリアという順番だ。
最初の30分くらいでサングリアを作った。一人一人作るのではなく、大きな入れ物にまとめて作るのだが、ここにもワークショップ設計者として拾うべきポイントがある。少し脇道に入るが許して欲しい。
パエリア先生はちゃんと全員に順番にタスクを振ってくれたのだ。
ワークショップで最も大事なのは「参加者が手を動かすこと」である。しかし当然時間の兼ね合いがあり、ともすると一方的に教えるだけで終わるダメワークショップは数多く存在するだろう。
この点パエリア先生は、時間的にまとめて作らざるを得ないという制約があるものの、果物を切るのはあなた、ワインを開けるのはあなた、コニャックを投入するのはあなた、のようにうまーく全員の参加感を作っていた。ワークショップオタクとしてはまずこの心意気に打たれる。
話を「待ち時間の使い方がうまい」に戻そう。
つまり、序盤で「サングリア」というアイテムを生成していのだ。これが鍵である。
件のパエリアに火をかける待ち時間である。ここで「サングリアを飲もうぜ」となるのだ。しかもパエリア先生は「これと一緒に食べると最高なんだ」と、机の下からチーズを持ってきてくれた。
火をかける時間は14分。私たちは自分たちで作ったサングリアと、先生おすすめのチーズをいただきながら、先生のパエリアトークを聞く素敵な時間を過ごすことができた。
「サフランが大事なんだ。その辺の店だと偽サフランを使っているから本物じゃない。」
「パエリアはビーチとかでも作る。この時、鍋が水平じゃないと均等に火が通らないから、水平機を使って台の傾きを整えるんだ。」
「パエリアは第一関節くらいしか盛れない。高さが決まっているから、人数が増えると鍋自体を大きくしないといけない。ほかこんなサイズもあるよ。」
14分はあっという間だった。
最後の10秒はみんなでカウントするいう1楽しいイベントも。
できた後はみんなで机に座って出来立てパエリアを食べた。美味しい。ダイニングテーブルでみんなで、というのも素敵だ。
もう一つ補足的に。小技と言っては失礼だが、先生は写真も上手だった。ワークショップ中、参加者の写真をたくさん撮ってくれるのだが、見ると明らかに上手だ。「上手ですね」というと「シネマを勉強してるので、光とかをちゃんと考えてるよ」と教えてくれた。小技はそれだけでは光らないが、全体的がしっかりしている中でさらに小技が効くと、とても光る。
サングリアとパエリアの作り方だけでなく、良いワークショップの作り方も体験できたという点でも、非常に満足度の高い時間だった。