ふと旅の中で「この旅のモチーフを決めるとしたら、それは“振り子”だな」と思ったことがある。
どういう時に思ったかというと、1人で寂しくなった時だ。
振り子は、行ったり戻ったりする。
最初はこの旅を自分に課すことで、自分をじっくり見つめ直そうと思っていた。そしてそれは実際に成功したと言っていい。今までこれほど長時間自分と喋りまくったことはなかった。
しかしながら、2ヶ月もすると当然その対話にも飽きが来る。今はとにかく家族、友達とたくさん話したい。
一方で、出国前はどうだったか。思い返すと日本にいた時はそれが日常なので、強いて「家族や友達とたくさん話したい!」とは当然考えない。今、海外にひとりでいるからこそ、そのありがたみを実感できるのだ。
ここまで考えて、「同じ環境に居続けることの一番のデメリットは、その環境のありがたみがだんだん感じにくくなってくること」だと思うようになった。
なので理想は、振り子のように、こっちにいったり、また戻ったりを繰り返すのが良い。こういうような経緯で振り子にたどり着いた。
振り子の”軸”は、今言ったような「ひとり/家族や友達」という“関係”の軸だけではない。
「日本にいる/海外にいる」という“場所”の軸
「ニートで暇/社会人で忙しい」という“時間”の軸
「考えること/動くこと」という…“自分(?)”の軸
今回の旅で実際に体感したのはこれらだが、それ以外にもたくさんの軸があるのだと思う。普通に生きていると、どうしても軸の片側に止まりがちで、そのありがたみを感じにくくなってしまう。
もののありがたみは感じられれば感じられるほど良い。これらの軸の両端を行ったり戻ったりしながら生きていきたいと考えた。
もう少し語らせてほしい。振り子のモチーフにはさらに意味を付け足すことができる。こういう連想はとても楽しい。が、メインは上述の通りなので、あとはこじつけかもしれない。
支点とおもり
振り子には支点がある。これは動かない。動くのはおもりの方である。自分に置き換えると、支点は「根っこにある信念」、おもりは「表面に出る行動」と見ることができると考えた。
あくまで根っこはぶらさずに、行動だけ色々試してみる。この旅でも、色々なことを経験したいが自分の根本は影響を受けたくない、そんな変わりやすい自分は嫌だと以前書いたが、これがこの発想と呼応する。
弦の長さ
おもりの動かし方についても考えた。おもりはパワーで動かせる。手で掴んでおりゃっとやれば大きく動く。今回の旅を決意できたのも、このパワーがうまく働けたからだ。瞬発力、馬力、勢いなどのキーワードが関連する。
一方で、振り子は、「弦を長くすること」でも大きく動かすことができる。短期的にはパワーでおりゃっと動かすのも良いが、弦が長くなった時の動きは、より雄大で、ゆっくりとしているだろう。なんとなくこっちの方がダンディではないだろうか。
ダンディを志望する私としては、パワーではなく、この弦をどのように長くするかにより興味がある。おそらく、深い人生経験のようなものが必要で、そういうものを経験していくなかで少しずつ少しずつ伸びていくようなものなのだろう。
他
あと個人的に振り子の英語の「ペンデュラム」の語感が好きというのも、モチーフとしてノミネートされた大きな理由だ。
余談も余談だが、漫画BLEACHで愛染過去編に入る時のタイトルが「turn back the pendulum」だった。ここからペンデュラム感度が高まったと言っていい。
実は旅の中でも振り子を見ていた。
ドイツの科学博物館で、60mの弦につるされた振り子が展示されていたのだ。時間が経つごとに振り子の軌道が動いていくことが、地球が自転していることを示す、という説明がなされていた。この壮大な感じと、ゆったりと動く振り子にしばらく見入ってしまったのは、今思うと偶然ではなかったのかもしれない。
こういう自分の中で意味のもつ事物は欲しくなる。まずは60mの弦を吊るせる家を手に入れる必要があるので、先は長そうだ。