こぼれ話ももう一つだけ。
土地契約の途中、売主代理人から、売主さんから伝言を預かっていると伺った。
(売主さんはご高齢のため、契約当日は息子さんが代理されている)
何だろうと思うと、
「年に1回、近くの公園で小さなお祭りがあります。その日は少しうるさくなってしまうかもしれません。」
とのことであった。
息子さんのお手元には、売主さんが書かれたと思われる直筆のメモがあった。
なぜかこの伝言がとても印象に残った。
土地を売るにあたって、何か買い手に伝えなければならない、それでお祭りのことが売主さんの頭によぎった、という点に、言葉にするのが少し難しい、不思議な暖かさを感じた。
難しいものの、頑張って言葉を尽くしてみる。
ひとつには「土地には歴史がある」ということを思ったのかもしれない。
土地は、当然以前は売主さんの持ち物で、そこには家があり、人が住んでいた。
そしてそこには当然人の生活があり、毎年1回、近くの公園から、にぎやかな音が聞こえていたのだろう。(地元なので、「あのお囃子ね」と、なんとなく祭りの雰囲気は想像がつく。)
この土地をいただくということは、その音を聞くことを私達が引き継ぐ、とも言えるのかもしれない。
もうひとつ考えたのは、「お祭りのことを伝えなければ」と、売主さんが思われたという事実についてだ。直接お会いしたことはないのであくまで想像だが。
土地売却にあたり、買主に伝えるべきことは、例えば土地の境界や、隣人状況など、いろんなものを想像しうる。
その中で、ご高齢であられる売主さんの頭に浮かんだのが、お祭りのことだった。
この事実は私に、長年の間、毎年毎年、家の中で、少し遠くに聞こえるお祭りの音を、椅子に座りながら聞いている売主さんの姿を想起させた。お祭りのお囃子がお好きだったのかもしれない。でも、それをうるさいと感じる人もいるかもしれないと、そう思われたのかもしれない。その一連の思いは、言いようもなく素敵である。本当かどうかは、この際どうでもいい。
お囃子の音は大好きなので、なんの問題もないです、とお伝えした。
今からお囃子の音を聞くのが楽しみだ。