駅近のお店で昼に食べたチャーハンが絶品だった。
無造作な感じがするが、やはり味付けがうまい。形容するほどの語彙力がないのが悔しい。
このちょっと細長い米がうまい。そしてたまーに入っているお焦げの硬さがアクセントになって、口の中が楽しい。
しかもこれで300円。中国料理は最高だぜ!
味をしめて夜も行くことに決めた。
夜になった。
諸々のタスクを片付け、さぁあとは美味い飯を食うだけだぜ!次は何を食べようかな〜と意気揚々と駅に向かった。
なんと閉まっていた。
たしかにちょっと不安にだった。時間は20時ちょっとすぎ。日本の感覚だとまぁ大丈夫だろうと思いつつ、中国の事情は想像がつかないのでもしかしたら、と思っていたらダメだった。
仕方ないので宿方向に戻りつつ、てきとうなお店を探した。
特に深い理由はないがこのお店にした。
中からおばちゃんが出てきてメニューを渡してくれる。
今回のご飯選びにはルールがある。絶対に辛いものを食べてはいけない、というものだ。なぜなら明日は朝から川下りのツアーに参加予定で、時間が決まっている。腹痛でトイレにのんびり籠ることが不可能だからだ。
ただ絶対安全なチャーハンは昼に食べていたので違うのを食べたかった。そこで見つけたのは青椒肉絲。日本人が読める数少ない中国料理である。野菜も食べたかったでちょうどいいと思って注文した。
おばちゃんは何か中国で話しかけてくる。領収書にメニュー記載通りの25元という数字がかかれるのが、その下によく分からん3元が加算されて28元を請求された。この、3元が何なのだろうか。
席で料理を待つ。行ったお店だけかもしれないが、中国はわりあい提供までの時間が長い気がする。美味しいのでちゃんと作ってるんだろうなと思っている。そんなわくわく気分の中待っていると、なぜか店のおばちゃんが同じ机に同席しだした。
そして何事かを中国語で話しかけてくる。当然何を言っているか分からない。
ただ自分を指したあと、俺を指さしてきた。出身か?出身の話なのか?
とりあえず覚えた数少ない中国語「リーベンマ(日本人、だったはず)」と言ったが、会話が成立してない時のリアクションをされた。
焦って次に出た言葉はなぜか「ハポン!(日本)」。今度はなぜか覚えていた数少ないスペイン語が出た。英語は通じない、ということが分かっていたので、消去法で大学で勉強したスペイン語が咄嗟に口をついたのだろう。当然伝わらない。そんなやりとりをしていると、おばちゃんはなぜか爆笑して席を立った。何だったんだろう。
と思った5分後におばちゃん再登場。今度は紙に文字が書いてある。
「私は中国人。あなたは日本人」のように書いてあった。なんだ伝わってるじゃん!シー!シー!(中国語でYes)と伝えた。ほっこりやりとりだった。
そんなことをしているうちに、着丼。おいしそ〜ご飯もついてくるとは。これが3元かも。
一口食べて、衝撃が走った。
「え、なんで青椒肉絲辛いの?」
青椒肉絲が辛かったのである。意味が分からない。俺、明日朝から川下りツアーあるって言ったよね?(言ってない)
非常に困る。これでは明日の朝から腹痛になり、桂林の美しい大自然に囲まれながら、俺自身が野生になってしまう(?)。
ひえぇどうしようと思っていると、再度にやにやしながらおばちゃんがやってきた。
どう?みたいに聞かれた気がした。辛いことを除けば美味しかったので、「ハオチュー!(中国語でうまいぜ!)」と言ったが、その後正直に「Hot!」と言い、手で口を扇ぐジェスチャーをした。辛いを中国語で知らなかったので仕方なくの英語である。おばちゃんは爆笑しながら「マー」と言った。
マー!絶対に麻婆のマーだ!辛いって意味だ!伝わったのである。
しかもおばちゃん、爆笑しながら厨房に戻り、ヤカンに入ったお茶を持ってきてくれたのだ。謎の爆笑おばちゃんが天使に見えてきた。中国の天使はおばちゃんの姿をしている。
ただお茶があるとはいえ辛いものは辛い。なんだったら「お茶も辛かったらどうしよう?」とまで思った。
そんな中、今朝の腹痛でちょうど考えていた腹痛対策、「全部食べないで残す勇気を持て」が頭に浮かぶ。心の中の悪魔の俺が囁く。「学ぶのだ、ご飯を残す罪悪感を乗り越える強さ(?)を」
しかしやはり義理深い俺、天使おばちゃんのお茶の施しに対しあまりにも無礼なのではと考えてしまう。難儀な性格である。
でもでも川下りもあるし…
悩んだ末に、「辛さの元凶っぽいやつだけ残す」という戦略をとることにした。
この青椒肉絲は4つで構成されている。肉と、玉ねぎと、きゅうりと、唐辛子っぽいやつである。味が全体的に辛いとはいえ、前者3つは美味しく食べられる。落とし所はここだ。心を鬼にして唐辛子っぽいやつだけ残した。
なんとか食べるべきものは食べきった。あとはそそくさと退散するのみである。
しかしここでまた頭の中の天使の俺が「それでいいのですか?」と囁く。
先のやりとりのせいで、俺が日本人ということはバレている。ここで俺がこっそり退散したら、「日本人はなんて礼儀のない奴らだ」と思われるに違いない。日本の品性は俺が背負っている、そんなふうに考えた。
辛さは頭を活性化させるのかもしれない。妙案を思いついた。そして実行した。ただご飯を残すだけではなく、下記の文章をGoogle翻訳で伝えのだ。
媚びがすごい。ただ可愛げのある良い案だった思っている。
少し真面目な話をすると、この時、「意思決定の基準として、コミュニケーションが生まれる方法を選択していく」という方針を思いついた。どうすればコミュニケーションが生まれる道となるか、それを考えながら旅をしていきたい。人と話すことが一番の目的なのだから。
Google翻訳の画面を見せると、おばちゃんは笑ってくれた。そしてこのために覚えた「シェンマ(何かしらの疑問詞)」、「ブーシー(否定の意味)」、マーの3つをただ羅列させ、メニューを指差しながら辛くないメニューはどれかを尋ねた。
おばちゃんは「ブーマー」で通じるよ、と中国語も教えてくれた。そして4品くらいを指さして「マー」と言った。その後ぐちゃっと中国語で何か言っていたが、おそらくその4品以外は辛くないということだろう。メニューは50品くらいあったので、引きの悪さも甚だしい。だけど心に残るやりとりとなった。
謝謝、といって店を出る。
おばちゃんはずっと笑っていた。明日また行くのが楽しみだ。
お腹問題についてはとりあえず最前は尽くした。あとは俺の胃に祈るしかない。